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なぜ2016年にクリントンは敗北したのか

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なぜ2016年にクリントンは敗北したのか
credit: Gage Skidmore

ヒラリー・クリントンは2016年に約300万票も多くの票を獲得しながら、中西部の接戦州ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンで敗北したことで、選挙人団でトランプに敗れ、トランプが大統領に就任することになりました。この記事では、なぜクリントンが優勢だとみられておきながら、トランプが勝ったかについてあるいくつかの説を検証します。

 

説1:隠れトランプ支持者が世論調査に正確に答えなかった

この記事でもっと詳しく解説しましたが、「隠れトランプ支持者」説は実際にはあまり根拠はありません。まず、全国世論調査をみると世論調査の平均と実際の結果の差は1%程度で、通常の誤差の範囲です。隠れトランプ支持者がペンシルベニアやウィスコンシンだけに集中していたと考えるのは無理があります。

むしろ、仮に隣人などに後ろ指を指されるのが嫌でトランプ支持を隠すとしたら、それは民主党支持者が多いカリフォルニアやニューヨークに多く隠れトランプ支持者がいそうなものですが、実際の結果をみると、クリントンはむしろこれらの州で世論調査よりも多くの票を獲得しました。

また、トランプはミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアなどで世論調査よりも高い支持を獲得しましたが、ニューハンプシャーやバージニアなどの他の接戦州では世論調査は概ね正確でした。なので、接戦州に限った話でもないのです。

 

説2:クリントンがこれらの州を失った理由は彼女が十分にこれらの州で選挙活動を行わなかったからだ

この説を展開する人は、彼女がウィスコンシンで選挙集会を開かなかったことや、ミシガンにもあまり行かなかったことを根拠に、もしクリントンがこれらの州で選挙活動をしていたら勝っていたと主張します。これにも、あまり根拠はありません。

彼女は確かにミシガンやウィスコンシンでは選挙集会をほとんど行いませんでしたが、トランプよりも大きな額の資金を投入し、さらにボランティアなどの活動もトランプ選挙部より大規模でした。

また、クリントンが選挙集会を頻繁に開いたペンシルベニアやフロリダでも敗北していますし、ミシガンより選挙集会が少なかったバージニア州では世論調査通りの差で勝利しています。

実際、選挙集会がどれほど実際に票を動かすのかはあまり大きく見積もることはできません。選挙集会に参加する人は、最も政治的にアクティブでその候補のために投票すると決めている人である場合が大半です。そしてトランプに勝利をもたらしたのはそういう有権者ではないからです。

 

説3:黒人の有権者を失ったから

黒人の投票率は2012年と比べて大幅に下落し、60%を下回りました。黒人の投票率が下がったことはクリントンの敗因の一因ですが、彼女がなにかできた問題ではないです。

というのは、2008年と2012年が例外的に黒人の投票率が急上昇した年であり、2016年の黒人投票率はオバマ以前の水準に戻ったに過ぎないからです。おそらく初の黒人大統領が候補だった時の黒人投票率を超えることは今後も無理でしょう。



それでは、なぜクリントンが敗北したのか?

出口調査を見ると、選挙の1週間以内に投票先を決めた有権者は偏ってトランプを支持する傾向がありました。このような有権者はトランプもクリントンもどちらも嫌いで最後まで投票先を決めていなかった人たちです。

まず、2016年の大統領選挙は多くの人が当時考えていたよりも接戦でした。しかし、クリントンの方がわずかに優勢でした。この人たちが直前になってトランプを選んだ理由は何でしょうか?

2016年のクリントンは彼女の私用emailの公務での使用に批判が集まり、共和党が政治利用したこともあり、一大スキャンダルになりました。トランプ政権では娘のイヴァンカや婿のクシュナーなど複数の政権スタッフが私用emailを公務で使用していました。

このemail捜査はFBIのコーミイ長官が夏に起訴するには当たらないと発表し、同時にクリントンを批判したことで幕を引きましたが(通常は起訴をするかしないかだけで不起訴の場合に対象を批判するのは極めて異例です)その後、選挙の直前の10月28日にコーミイが捜査の再開を発表しました。

捜査が再開された理由はクリントンの側近のフマ・アベディンの当時の夫、アンソニー・ウィーナー(数年前に自分の性器の写真を女性に送り付けていたことが判明した元政治家)がセラピーを受けて治ったと主張していましたが、実は未成年の少女にまたしても自分の性器を送りつけていることが判明し、捜査されていました。

その一環で押収した彼と妻の共用のコンピューターから公務のemailが発見されたことで再開になったのです。実際はすでにFBIがチェックしおわったemailと同じで(同じメールアカウントに別の機器からアクセスしていただけ)結局結論を変えるものではありませんでしたが、スキャンダルがまた蒸し返されてクリントンには大ダメージとなりました。

世論調査から選挙の結果を予測する選挙モデルで知られているネイト・シルバーによると、コーミイの捜査再開の影響は最大で3,4ポイント、少なくても1ポイントほど接戦州で票を動かしただろうということです。クリントンはペンシルベニア、ウィスコンシン、ミシガンをすべて1%差以下で敗北しました。


その他の接戦州であるコロラドやニューハンプシャー、バージニアではそのような急な動きは見られませんでした。これらの州と中西部の3州の違いは、コロラド、ニュー頒布者ー、バージニアなどの方が人口に占める大卒者の割合が高いということです。2016年の選挙では学歴がどの候補を支持するのかの重要な要素で、このような州ではアメリカの平均よりもずっと高学歴だったことでそれがクリントンへの傾く理由だったのかもしれません。

実際、中西部3州は全てアメリカの平均よりも人口に占める大卒者の割合が低く、コロラドやバージニアは50州の中でマサチューセッツやメリーランドと並んでトップクラスです。ニューハンプシャーも全米平均よりかは高いです。

特に中西部3州で世論調査が外れた理由の一部に、当時の州レベルの世論調査の多くは学歴で加重をかけていなかったことが挙げられます。2016年までは学歴と政党支持相関はさほどありませんでした。2012年の共和党指名候補ロムニーは高学歴の穏健右派にアピールがある候補でした。

しかし、トランプを支持するか、クリントンを支持するかには例年よりも学歴と強い相関関係がありました。そして高学歴有権者の方が世論調査に答える確率が高いです。通常、有色人種や若者のように実際の投票率よりも世論調査に答える割合の低い集団は世論調査ではその分ウェイトをかけられます。

例えば、実際は全有権者に黒人有権者が占める割合が10%だとしても、世論調査のサンプルのうち、黒人有権者は5%だったりします。このような場合、黒人有権者の回答結果がサンプルの10%になるようにウェイトを掛けます。

2016年の選挙の世論調査では、年齢や人種でのウェイトは掛けられていましたが、特に州レベルの世論調査では学歴でウェイトをかける世論調査は少数でした。例えば、ペンシルベニア州での選挙の直前のモンモス大学世論調査ではクリントンがバイデンに4%差をつけていました。しかし実際の選挙結果をもとに学歴でウェイトをかけるとクリントンの差は2%に縮みます。さらに黒人の投票率も2012年を参考にしていたので高く見積もっていたため、実際の投票率でウェイトをかけるとクリントンのリードは1%にまで縮んだそうです。トランプは0.7%差で勝利しました。

この程度であれば、コーミイの捜査再開の発表などほんの僅かな要素で動きますし、単純に世論調査の誤差の範囲内です。

 


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