アメリカにおける新型コロナウイルスの死者数について、「CDCが実際の死者数は9000人程だと発表したという嘘が主にtwitterで広まっています。
ファクトチェックサイトのPolitifactによると、これは最初にFacebookに陰謀論者が書き込んだ投稿がもとになっているということです。これがtwitterに、トランプがリツイートしたことで拡散しました。
この嘘のオリジンは8月26日のCDC(アメリカ室病管理センター)の国立医療統計センター(NCHS)の新型コロナウイルスに関する死者数の発表をもとにしています。この8月26日のNCHS発表はここから読めます。
死亡証明書をもとにして作成されたこのデータで、死亡証明書にCOVID-19のみが死因として記載されているのは全体の6%と発表しました。これが「実際の死者数は9000人」の嘘の元です。
死亡証明書には、直接的な死因以外にそこに至った原因が記載されます。NCHSの8月26日発表を見てみると、死亡証明書に記載されるその他の死因としては呼吸不全や心不全など様々な疾患が記載されることがわかります。
これが死亡証明書の死因欄の記載例です(CDCより)
これをみると、直接的な死因は急性呼吸窮迫症候群でそこにいたる原因に「肺炎」「covid19」と書いてあります。「covidの死者数は実際より少ない」と主張する人は、このような例はcovid19の死者に含めないことになります。 pic.twitter.com/fUoLcLTEB3
— アメリカ政治 (@America_seiji) September 2, 2020
新型コロナウイルスの死者の死亡証明書の記載例を見てみると、「COVID-19」によって「肺炎」が引き起こされ、それがさらに「急性呼吸窮迫症候群」を引き起こしてこの患者は死亡しました。この例では死亡証明書に複数の死因が書かれているため、死亡証明書にCOVID-19だけが書かれてある6%には含まれないことになります。
しかし、この患者の死因が新型コロナウイルスではないというのはおかしいでしょう。新型コロナウイルスが引き起こした症状が原因で死んでいるからです。逆に言えば、新型コロナウイルスに感染しなければこの患者は死ななかったことになります。
死亡証明書に直接的な死因につながる複数の原因を書くのは一般的で、例えばがん患者が死亡した場合でも、がんによって引き起こされた臓器不全で患者が死亡した場合、「患者が死んだのはがんではない」とは言いません。
がん患者の死亡証明書の記載例をみると、「乳がん」->「脳への転移」->「脳溢血」と記してあります。これは死亡証明書の死因欄に複数の記載がある例です。それではこの患者の死因はがんではなかったといえるでしょうか?この陰謀論のロジックでいえば、これをがんの死に含めてはいけないことになります。
COVID-19のみが死亡証明書に記載されている6%は他に死因がなかったかというとそうとは限りません。死亡証明書には記載されていないというだけです。単純に医者が気づかなかったのかもしれませんし、死後にウイルス陽性が判明してとりあえずCOVID-19とだけ書いたのかもしれません。
NCHS副長官代理ジェフ・ランカシャーは取材に対し、死亡証明書にCOVID-19以外の記載がある94%のケースのほぼすべてにおいて、COVID-19が “underlying cause”として記されていると説明しました。
Underlying causeは死亡証明書part1の一番下に記されるもので、死につながる一連の症状を引き起こした原因のことです。先の例では、COVID-19がunderlying causeで、肺炎を引き起こし、直接的な死因の急性呼吸窮迫症候群を引き起こしました。つまり、COVID-19以外の記載がある例においてもほぼすべてCOVID-19が死因となる一連の症状を引き起こしたということです。ソーシャルメディアで広がっているCOVID-19による実際の死亡者は9000人程度という主張は嘘だということがわかります。
新型コロナウイルスについては様々な嘘が広まっており、専門家はそれによってウイルスがさらに広がったり、ワクチンが承認されてもワクチン接種に抵抗する人が出ることを危惧しています。
追記
このデマがソーシャルメディアで広がっていることに対し、CDC医療統計センター(NCHS)、死亡統計部長ボブ・アンダーソンがわかりやすく答えました。
・8月22日時点で、死因にCOVID-19と記載があった死亡証明書は161,392枚あった。
・そのうち6%は死因・状態にただ一つ(COVID-19)のみが記載されていた
・その他94%には、その他の要因も記載されていた。これは、糖尿病などの持病や、肺炎、呼吸不全のようにCOVID-19が引き起こした症状である。