ホーム News 隠れトランプ支持者はいるのか

隠れトランプ支持者はいるのか

0
隠れトランプ支持者はいるのか
credit: Gage Skidmore

トランプ支持者などがよく世論調査の支持率でバイデンに負けていても選挙に勝てる根拠として、トランプ支持者はレッテルを張られるのを避けるために世論調査に正確に答えないから実際には世論調査よりも多くトランプ支持者がいると主張します。これは、通称「隠れトランプ支持者」、正確にはsocial desirability biasと呼ばれます。

しかし、この説には根拠はあまりありません。2016年の選挙では、実際の選挙結果とRCP世論調査平均におけるクリントンとトランプの差はたったの1.1%でした。州の世論調査では世論調査平均と選挙結果のずれはもっと大きかったですが、それは他の要因で説明できます。詳しくはこの記事で書きました

 

 

確かに中西部の接戦州の世論調査と実際の結果は多少ずれていましたが、隠れトランプ支持者がカリフォルニアやバージニアではなく、ペンシルベニアに集中する根拠は全くありません。むしろ、カリフォルニアやニューヨークなどの民主党支持者が多い州の方がトランプ支持者がプレッシャーを感じて「隠れ」そうなものですが、実際の結果はむしろ世論調査よりもクリントンのリードが大きかったです。

また、今年の選挙でもの世論調査にも隠れトランプ支持者がいるという根拠はありません。本当に世論調査員にトランプを支持していると伝えるのが嫌であれば、オンライン世論調査ではそのようなことはないはずです。仮に選挙を左右するほど隠れトランプ支持者がいるのであれば、調査員が行う電話世論調査(最も信頼できると考えられている)とオンライン世論調査に差があるはずです。

FiveThirtyEightでB-以上のレーティングのある9月上旬(この記事執筆時)の世論調査を調査員による電話世論調査とオンライン調査3つずつ選んでみました。

電話調査オンライン調査
Suffolk: バイデン +7YouGov: バイデン+11
Quinnipiac: バイデン+10IBD/TIPDD: バイデン+8
Selzer: バイデン +8Ipsos: バイデン+7
平均: 8.33平均: 8.66

興味がある人はFiveThirtyEightやRCPに行って確かめてください。州によって多少の違いはあるでしょうが、レーティングが同じならばオンラインでも電話調査でもさほど差はないことがわかります。2016年も特にトランプ支持がオンライン世論調査で顕著に高いということはありませんでした。注意として、最も品質が高いと考えられている世論調査は調査員による電話世論調査です。レーティングがC-のSurvey Monkey(オンライン)や同じくC-のTrafalgar(IVR)は考慮していません。

実際、「隠れトランプ支持者がいる」という仮定で特定の有権者の答えを加重しているトラファルガーという世論調査は隠れトランプ支持者をとらえたとしてNHKの記事にも載っています。トラファルガーはIVRと呼ばれる機械音声による世論調査です。仮に他人に差別主義者だと思われたくないからトランプ支持を隠す有権者がいるとして、「トランプを支持している場合は1を、バイデンを支持している場合は2を押してください」という音声が流れるだけの調査にわざわざ嘘をつくでしょうか?

世論調査に嘘を答える人が全くいないとは言えませんが、世論調査をミスリードするほどいるという根拠はどこにもありません。そもそもこのSocial desirability biasというのが実際どこまであるのか根拠が不明です。

他国のフランスやドイツの世論調査と実際の結果の差を見ても、いわゆる社会的に受け入れられないと考えられたMarine Le PenやAfDの結果が世論調査よりも顕著に高かったということはありませんでした。

「隠れ支持者」というのは面白い仮説ですが、あまり強い根拠は見たことがありません。ウィスコンシン州でトランプは世論調査を約7%上回りました。これは確かに大きいですが、2012年にはオバマがミシガン州で5%以上世論調査を上回っていますし、2008年にはマケインがアリゾナで5%、2004年にはブッシュがコロラド州で世論調査平均を5%以上上回ったことを考えると、そこまであり得ないことではありません。