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トランプ弾劾裁判1日目

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トランプ弾劾裁判1日目

アメリカ史上初めて2回弾劾された大統領のトランプの、上院での弾劾裁判が始まりました。弾劾裁判では、下院が任命した弾劾担当官が刑事事件における検事の役割を果たします。

初日ではまず最初にすでに大統領でない人物の弾劾と罷免を行うことの合憲性に関する議論が行われました。この記事でも説明しましたが、すでに辞任した人物が弾劾された先例もありますし、ほとんどの憲法学者は、退任後の弾劾と罷免が可能だと考えています。



弾劾にあたる罪は、「国家反逆」「贈収賄」「その他重罪と軽罪」です。先の二つはわかりやすいですが、「その他重罪と軽罪」とは何なのでしょうか?これは、イギリスのコモンローにたどりつくもので、簡単にいうと公職についた人物が、その立場を濫用したりするようなことです。これは必ずしも刑法上の犯罪とは限りません。

さて、トランプは大統領としての宣誓を破り、反乱を扇動したとして弾劾されました。しかし、議会での弾劾決議の審議、可決、上院での弾劾裁判・投票にはある程度の時間がかかります。例えば今回の弾劾では、弾劾決議の可決から上院での弾劾裁判が始まるまで1ヶ月かかりました。

仮に退任後の大統領の弾劾が不可能であれば、大統領の任期の最後の1ヶ月ほどは大統領がどんな権力の濫用をしても弾劾されない空白期間が存在することになります。それであれば、大統領にはこの最後の1ヶ月まで待ってこの期間に権力濫用を連発しまくるインセンティブが生まれます。トランプが任期の最後の一ヶ月で行ったのは法的な選挙結果を覆して権力にしがみつくための陰謀論の拡散と暴動の扇動でした。



もし、最後の一ヶ月に空白期間が生まれるのであれば、選挙に負けた大統領は最後の一ヶ月にできるだけ立場を濫用して権力にしがみつこうとするインセンティブが生まれることになります。この記事で書いたように、弾劾されて罷免されれば、上院で公職就任が生涯禁止される可能性があります。しかし、実際に空白期間が憲法上認められるのであれば、4年後にまた選挙に立候補するときに備えて何らかの権力濫用をしても公職就任が禁止される恐れはなくなります。

この議論を行ったのは下院弾劾担当官の一人、ジェイミー・ラスキンです。彼は議員になる前はアメリカン大学のロースクールで憲法を教える憲法学教授でした。

彼はまず、選挙に敗北した直後から陰謀論を拡散し、敗北を認めるのを拒否して支持者に「1月6日に議事堂へ行進」するように呼びかけ、自身も1月6日の議事堂襲撃事件の午前中に支持者に「これから議事堂に行って、議員を『勇気づけるんだ』」などと呼び掛けていたトランプに扇動された暴徒がいかにして議事堂を襲撃したかについてのビデオを提示しました。


ラスキンはらの保守派憲法学者でも多くが退任後の弾劾も合憲であるとしているという意見を紹介したあとで、さらに憲法制定時の例をだします。

上で書いたように、アメリカの憲法はイギリス法を参考にして作られ、弾劾に関する条文もイギリス法をもとにしていました。この記事で書いたように当時の記録を見ると、「重罪と軽罪」という文言を入れることについて、アメリカ憲法制定時にイギリスで弾劾されたあるイギリスの政府元職員のウィリアム・ヘースティングズの例が引き出され、刑法上の罪を犯していないヘースティングズのような人を弾劾するために「重罪と軽罪」という文が含まれました。

アメリカの憲法起草者がこのことについて議論していた当時、ヘースティングズは弾劾されましたが、彼が弾劾されたのは公職を辞してから二年も経った後のことです。つまり、当時の憲法起草者たちは「元」政府職員が公職中に行った行為について弾劾するのは当たり前だと考えていたということです。

憲法起草時の各州の州憲法もこの考えを支持しています。当時の州憲法では、明確に元職員も弾劾対象だと書いているか、明確には書いていないものの、そういった前提に立っているもののどちらかでした。デラウェア州憲法では、「元職員」のみが弾劾対象だと記されてありました。つまり最も弾劾対象が狭い州憲法でも、元職員は弾劾対象でした。

憲法起草者のウィリアム・デイヴィーは、大統領弾劾の必要性について、特に選挙に関する危険性について言及しました。「弾劾がなければ、大統領は再選のために何でもするようになるだろう」まさに、今回トランプが弾劾されているのは選挙に負けたにも関わらず権力にしがみつこうとしたからです。

 

トランプ側の弁護士と主張は、複数ありましたが簡単に列挙すると以下のようになります

・元大統領は刑事告訴されうるため、訴追が可能である

・弾劾にあたる罪は刑法違反でなければならない

・トランプの支持者に対する発言は憲法修正第一条で保護される表現の自由だ

・これは民主党による政争の道具だ

 


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