ホーム News 元大統領を弾劾できるのか?

元大統領を弾劾できるのか?

0
元大統領を弾劾できるのか?

上院でのトランプの弾劾裁判が正式に始まりました。ところで、元大統領の弾劾は可能なのでしょうか?

弾劾に関して憲法にはこう書いています「誰も、出席した上院の3分の2以上の賛成を無くして、断罪されない。懲罰は、役職からの罷免、そしてアメリカ合衆国内で名誉、信頼、利益のある職に就くことの禁止までとする」

上院の3分の2(正確にはmembers presentなのでその場にいる上院議員)の賛成をもって弾劾裁判で断罪された人は自動的に罷免されます。そして、上院はその後もう一度審議を行い、今度は過半数の賛成をもって罷免された人の公職就任を禁止できます。つまり、上院が公職就任を禁止するかについての投票をしている段階ではその人はすでに罷免されているので、公職についていない私人だということになります。



また、過去に弾劾裁判で断罪された8人のうち(大統領以外の連邦裁判官などの連邦の職員も弾劾の対象)、公職の就任が禁止されたのは3人です。ということは、上院の弾劾裁判で断罪されて罷免されるということと、公職の就任が禁止されることはやはり同時に起こるのではなく、最初に罷免が起こり、罷免によってすでに私人になった人に公職就任がさらに禁止されるかもしれないということになります。

つまり、弾劾裁判による断罪には公職からの罷免そして、公職の就任禁止という二つの効果があるということです。逆に言えば、すでに公職についていない人に対して公職就任を禁止できないのであれば、弾劾された直後や直前に辞任すれば、公職就任を禁止されないことになります。そうであれば公職への就任を禁止するという文の意味がなくなります。

実は、これに関してはテストケースがあります。南北戦争で戦果を挙げ、グラント大統領の戦争長官になったウィリアム・ベルナップです。彼は人軍としては有能だったのかもしれませんが、政治家としては素晴らしく腐敗していました。そして、汚職で捜査されていました。ベルナップは弾劾される前に辞任しました。



しかし、下院はすでに辞任し、私人だったベルナップに対する弾劾決議を可決します。当時の下院議長のマイケル・C・カーは上院に、「ベルナップの辞任は、弾劾から逃れるためのものである」と書簡を送っています。上院は下院の弾劾決議を受け入れ、弾劾裁判を行いました。過半数の上院議員が賛成したものの、当時断罪に必要な3分の2にあたる40票に3票届かず、ベルナップは断罪を逃れました。

トランプはすでに弾劾されています。弾劾決議は下院で可決され、あとは上院の弾劾裁判を待つのみです。ベルナップの例に従えば、上院で弾劾裁判を受けることに憲法上の問題はないことになります。法廷に持ち込む可能性がありますが、過去に最高裁は弾劾裁判に関しては上院の占有事項であるため、介入できないと判決しています。

また、ほとんどの憲法学者は退任後の大統領の弾劾も可能だと考えています。なぜなら、議会での弾劾決議の発議や弾劾裁判などには一定の時間がかかります。ということは、任期中の最後の一ヶ月ほどは大統領はどんなに権力を濫用としても全く憲法上責任を問えないことになります。

それであれば、大統領の任期の最後になったら大統領が権力を濫用し放題になります。

しかし、これは上院の共和党にとってはちょうどよい言い訳になります。実際、上院で、元大統領であるトランプの弾劾裁判は違憲であるという共和党上院議員ランド・ポールの決議案に45人の共和党上院議員が賛成しました。


ブログに加え、より詳細なニュースレターでの解説に興味がある人はPatreonへどうぞ。月600円から毎週一回のニュースレターとパトロン限定投稿などの特典があります。

詳しくは以下のリンクからどうぞ。

Become a Patron!

 


Preview image
America Seiji is creating 日本語での深いアメリカ政治の解説 | Patreon
Become a patron of America Seiji today: Get access to exclusive content and experiences on the world’s largest membership platform for artists and creators.