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Qanon信者が現実に直面する

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Qanon信者が現実に直面する

匿名掲示板への投稿

Qanon陰謀論は、インターネットの匿名掲示板に「自分は機密情報へアクセスできる政府高官だ」と自称するユーザーが2017年の10月28日に投稿したことが始まりです。

このユーザーは「10月30日づけてクリントンのパスポートが無効にされて彼女は海外で逮捕されて護送される」と主張しました。元々陰謀論が広まった2016年の選挙で、クリントンが子供の血を飲む悪魔崇拝者だとか、ピザ屋の地下室で児童が監禁されているなどという陰謀論が広がり、それを信じた人が銃をもってピザ屋に突入するという事件が起こりました。

投稿から二日後にクリントンが逮捕されずに何も30日が終わったため最初から予言が外れたことになりますが、この陰謀論を信じ始めた人はクリントンは密かに逮捕されているとか、何らかの理由により作戦が遅れたとか様々な理由で正当化し、この陰謀論にもっとのめりこみます。



この後も匿名掲示板ユーザー自称「Q」は様々なミステリアスな投稿をしていました。彼の投稿は「真実を明らかにしろ。政治諜報[違法]1%以下。人類を信じろ」といったようなもので、陰謀論を信じていない人にはただのたわごとにしか聞こえませんが、この匿名掲示板ユーザーが本当に政府高官で暗号でメッセージを匿名掲示板に投稿していると思い込んだ信者は、[]だったりセンテンスの長さだったりを分析して意見を交換し合って「隠れたメッセージ」を見つけようとしていました。

Qの投稿を簡単にまとめると「世界は裏からペドフィリアのエリートたちに支配されている。トランプは軍と協力して世界をこのペドフィリア秘密組織から解放するために闘っている。いつか来る『大きな目覚めの日』に全てが明らかになり、世界の真実が暴かれる」というものです。

匿名掲示板ユーザーの上記の主張を信じた人たちはインターネットで積極的に意見を交換し、予言が外れても、自分たちがQのメッセージを正しく解読できなかっただけだとお互いを励ましあっていました。

この陰謀論に全く関係ない日本でもなぜか広まり、オンラインで投稿しているユーザーがいます。

 

大きな目覚め

さて、この陰謀論の信者はいつか来る「大きな目覚めの日」を心待ちにしてトランプの手の動作や服の着方、スペルの間違ったツイートから支持者だけに送っているはずの暗号メッセージを読み取ろうとしていました。信者はどんどん拡大し、現実世界でも信者が爆弾を送って逮捕されたり、子供を誘拐しようとて(本人にすれば守ろうとして)逮捕されたりしました。

また、Qanon信者は自分の家族や友人にも布教しようとして気味悪がられてクリスマスを一人で過ごしたり、ますます孤独になって陰謀論にのめりこむようになります。

しかし、信者は「大きな目覚めの日」が訪れて自分たちが正しいと証明されれば、自分を気味悪がって離れていった家族や友人も戻ってきて許しを請うだろうと信じて、一部のキリスト教徒がキリストの再臨を心待ちにするように、「大きな目覚めの日」が訪れて自分たちが正しいと証明されたら家族を許してやろうなどとオンラインで話し合っていました。

「大きな目覚めの日」は訪れずに、大統領選挙でトランプが敗北します。信者からすればこれはあり得ない事態です。正義のために日々働いている大天才のトランプや、軍部トップの良識派が綿密な計画を立てた作戦が失敗するわけがありません。

彼らは、これは不正選挙を暴いて裏切り者の共和党員を見つけるための作戦の一部だとか正当化し、この不正が明らかになってトランプが正当な勝者だと宣言されるだろうと考えます。



Qanon信者にとっては1月6日の議事堂襲撃は大きな日で、この日が「大きな目覚めの日」だと信じて議事堂を襲撃して逮捕されたQanon信者もいます。議事堂でバリケードを乗り越えて議員のもとに向かおうとして警官に射殺されたトランプ支持者もQanon信者でした。

議事堂襲撃が失敗に終わると、信者の間でも意見が分かれます。一部の信者は、議事堂襲撃は失敗したものの、ナンシー・ペローシのコンピュータを奪って秘密情報を明らかにするための愛国者の行動だったと考える一方で、別の信者はあれは悪の秘密組織がアンティファをトランプ支持者に見せかけて行った敵側の作戦だと思います。

ニューヨーク・タイムズが取材したヴァレリー・ギルバートという女性は、議事堂を襲撃したのはQ信者の振りをしたアンティファだと真実派閥でした。Q信者というとどこかの田舎に住んでいる貧困白人と思う人もいるかもしれませんが、彼女はハーバード大学卒でニューヨークのアッパー・イーストサイドに住んでいます。

多くの人の想像とはことなり、陰謀論を信じている人は「頭がおかしい」というわけでは必ずしもありません。この本に書いてあるように、陰謀論は何か物事につながりを見出そうとする自然な行動が暴走した結果なのです。この本はオーディブルでも聞けます。

しかし、彼らはバイデンが大統領に就任することなどありえず、1月20日の就任式までに真実が明らかになり、トランプの正当な勝利と、自分たちの正しさが証明されるということは全く疑いません。

 

大統領就任式

さて、いよいよ1月20日の大統領就就任式に当日です。Qanon信者は議事堂襲撃の後ソーシャルメディアアカウントを閉鎖されたりしましたが、他のプラットフォームに移り、真実が明らかになる瞬間を目撃しようとテレビの前に張りつきながら投稿して他の信者と意見を交換していました。

彼らは、議事堂を警備している州兵は実は就任式にやってくるバイデンやクリントン、オバマら悪の秘密組織の人間を一網打尽に逮捕するためだと思い込み、バイデンが就任する直前、悪の秘密組織の人間が油断している瞬間に軍が行動を起こし、真実が明らかになると疑っていません。

この日のために仕事を休み、ワインを用意してテレビの前でバイデンが逮捕される瞬間を目撃しようとしていました。しかし、そのまま何もなくバイデンが就任宣誓を行って正式に大統領に就任しました。

信者たちはパニックに陥ります。ここに至って一部の信者はようやく、自分たちは匿名掲示板に投稿したどこかの得体のしれないティーンエイジャーにでも騙され、なんの意味もなく2年間ツイートのスペルミスを解読したりするのに時間を費やしたり、家族や友人から気味悪がられて一人になったのではと考え始めます。

一方で他の一部は、バイデンが大統領になっているのはトランプの作戦の一部で、憲法改正される前の大統領就任日だった3月4日にトランプが正式に大統領に就任するとまだ信じています。州兵がまだ一部ワシントンDCに残っているのは、Q信者らを捜査している法執行機関も、こういったことを把握しているため、3月4日にまたトランプ支持者が議事堂を襲撃することを警戒しているからです。

ニューヨーク・タイムズの記者がヴァレリー・ギルバートにバイデンの就任式の後にもう一度連絡を取りました。彼女は、今は1人で誰とも話していないそうです。彼女はQを信じて、自分のことを心配した友人や、家族との関係を断ってきました。彼女や他の信者にとって、これは単なる政治的な話題ではなく、コミュニティそのものなのです。

しかし、Qanon陰謀論を信じやすいということは、他の陰謀論も信じやすいということです。白人至上主義団体などは、Qanon信者をリクルートしようと積極的に活動しています。

 


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