日本におけるQanon陰謀論

2020-05-16

Qanonの発祥

Qanon(キューアノン)は、アメリカの匿名掲示板発祥の陰謀論です。日本の匿名掲示板「2ちゃんねる」をモデルに作られた匿名掲示板「4chan」に2017年の10月に自分は政府機密情報権限Qレベルを持っている高官であり、世界は長年ペドフィリアの秘密組織に支配されていたと主張する人が現れました。

機密情報権限Qレベルというのは実際に環境省にある情報権限です。この投稿者によると、アメリカを悪の支配から解き放つために軍の良識派がトランプを大統領にさせたとのことです。

彼は2017年10月28日の投稿で「クリントンはすでに拘束された」「10月30日付でクリントンのパスポートは無効にされた」「大規模な暴動がおこるが州兵が鎮圧にあたる」などと投稿しました。これは4chanのトランプ支持者に熱狂的に受け入れられました。

匿名掲示板4chan(その後別の匿名掲示板に移りました)にいるような人は、最も極端な思想を持った人が多いです。当時特別検察官に捜査されていたトランプに不安を抱いていた支持者はこの陰謀論に飛びつきました。

10月30日が何事もなく過ぎ去り、この記事執筆時の2020年5月でもクリントンは逮捕されていませんが、信者たちの信仰は揺らいでいません。

その後も、2018年の3月1日に「3月11日にポデスタ(2016年クリントン選挙対策部の幹部)が逮捕される」などと時々逮捕などの予言をしてきました。もちろん全部外れています。

この匿名投稿者(自称Q)の投稿は、名詞をそれっぽく聞こえるようにつなげただけのたわごとですが、信者には信用できる政府高官の投稿に思えるようです。一例としては以下のようなものです。

「偶然を信じるか？

『直接的な時間』

BDT

通貨を考えろ

花火を考えろ」

Qの投稿の多くは笑えるほどくだらないものです。例えばCIAがキム・ジョンウンを北朝鮮のリーダーにしたとか、民主党の議員は追跡装置を足首につけているとかです。

この陰謀論は、「トランプは悪の組織と戦うヒーロー」と信じたい人々の心理に付け込んでいるため、特定の人たちに関しては極めて有効です。

Qanon信者は家族から絶縁されたり、クリスマスを一人で過ごすはめになってもいつかすべてが明らかになる日(彼らは「大きな目覚め」と呼びます)を心待ちにして過ごしています。

日本におけるQanon信者

上記はアメリカにおけるQanon信者です。これは、トランプ支持者という特定の層にむけた効果的な陰謀論です。また、トランプが保守派であり、共和党の大統領であるという事実から、Qanon陰謀論を信じる人の多くは右翼陰謀論者です。

しかし、不思議なことに日本でもQanon信者が増えてきているようです。

Googleトレンドを見ればわかるように、2018年になってから主に表れるようになり、最近急上昇しています。これは、陰謀論というのは人が不安に感じた時に広がりやすいからです。

日本のQanon信者で不可解なことは、彼らは別にトランプを擁護する理由はないということです。彼らはトランプに投票したわけでもないし、多くはそこまでアメリカの政治に関心を持っていなかったでしょう。

また、日本の信者は少なくともtwitterを見る限りは政治的な右派よりも左派の方が多いようです。彼らのtweetをみると、時に日本の現首相を批判したり、原子力発電所に関する投稿があったり、日本では左派系と思われる投稿が多いことです。特に安倍首相はトランプと関係が比較的良好であることを考えたら彼を批判するというのはおかしなものです。

日本のQanonについてアメリカと異なることは、英語の投稿を匿名掲示板や投稿がまとめられているサイトで読める人が強い影響力を持つということです。

Twitterで多くのフォロワーを集めて連日のように大量のtweetを投稿しているアカウントがありますが、このアカウントは多くのQの投稿を日本語に翻訳しています。日本人は英語を読める人が少ないようなので、このような少数の人が強い影響力を持っています。

たとえば、この影響力の大きいアカウントがなぜかマイケル・フリンという元トランプ政権国防アドバイザーのファンのようで、フリンと関係があるようなことを示唆するツイートをしたりしています。

マイケル・フリンは退役陸軍中将で、国防情報長官などを勤めた人ですが、上官の命令に従わないことがあり解雇されました。その後トランプ選挙に参加し変な言動で知られていましたが、選挙後にロシア大使とオバマ政権の対ロシア制裁について話し合い、当時ロシア大使を盗聴していた諜報機関に傍受され、このことで事情聴取を受けた際にFBIに偽証をして起訴された人です。

さて、この影響力の大きいアカウントがフリンのことを大好きなため、日本のQanon信者はアメリカのQanon信者よりもフリンについて頻繁に言及していました。フリンは一度司法取引に応じたため、陰謀論者のお気に入りではなくなった時期があります。

理由は明確にはわかりませんが、Qanon陰謀論は日本で極めて成功しているようです。日本のソーシャルメディアユーザーに占めるツイッターユーザーの割合は他国と比較して高い割合にあることが関係しているのかもしれませんが、陰謀論に関する情報を発信しているアカウントによると、英語のQの投稿まとめサイトへのリンクを含むツイートの約23%は日本語だったようです。

Nearly a quarter (23.3%, to be precise) of recent tweets linking #QAnon website qmap(dot)pub are in Japanese, despite the site itself being an English-language site about a (mostly) US-centric conspiracy theory. pic.twitter.com/5vsZdj3yn7
— Conspirador Norteño (@conspirator0) January 7, 2020

日本のQanon陰謀論アカウントは政治的にはメインストリームではなく、スピリチュアル系の投稿をしている人も多いです。政党では「れいわ新選組」という政党への好意的なツイートとが他の政党よりも多く見られました。

Qanonはすでにカルト宗教の域に達しつつあるので、自然に消滅することはないと思います。911陰謀論やワクチン陰謀論とは異なり、Qanonには明確なリーダーがいます。

信者は匿名掲示板への投稿をまち、彼の投稿をまるで宗教学者が聖書の言葉を分析するように熱心に分析します。そして日本における有力アカウントのように、Qの言葉を一般信者に伝える預言者的なポジションができつつあります(英語のアカウントは日本語のように翻訳を必要とはしませんが、いくつかの有力な陰謀論者が一定の影響力を持っています)。

これまでなんどもQは有名人が逮捕されるといい続けて全部外れていますが、信者たちの信仰心は一向に揺らいでいません。トランプが任期を終えて彼らが心待ちにする「大いなる目覚め」が訪れなくても彼らはこの陰謀論を信じ続けるでしょう。

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