以前にインターネット匿名掲示板発祥のQanonついてはこの記事で、この陰謀論の日本での広がりについてはこの記事で解説しました。この記事では、共和党内でのQanonの影響力の拡大について解説します。
Qanonは上記の記事で解説したようにインターネット匿名掲示板4chan発の陰謀論です。トランプが密かにアメリカ政府内の悪の秘密組織と戦っていると主張するこの陰謀論はトランプがQanon陰謀論者をリツイートしたりしたため常にインターネットの極右界隈でじりじり広がっていました。だんだんと現実世界でもトランプ集会にQanonのサインや服を着たひとが出るようになり、共和党の一部の議員らがQanon陰謀論と似たような発言をすることもありました。
そして、来期(2021年)のアメリカ下院にQanonを全面的に支持する明確なQanon信者が下院議員として加わることになりました。
マージョリー・テイラー・グリーンは共和党の勝利が約束されているジョージア州第14下院選挙区の共和党予備選挙で勝利しました。ということは、彼女は本選挙で確実に勝利するので議員になるということです。
グリーンは夫の建設会社の共同経営者で、子供が三人いる裕福な母親でもあります。彼女は熱心なQanon信者であり、2017年には既に陰謀論サイトの寄稿者としてQanonへの支持を表明し、クリントンが政敵を暗殺したと主張していました。彼女は黒人やユダヤ人、イスラム教徒に対する差別的な発言も行っています。
グリーンほど明確にQanon信者ではないものの、Qanonへの支持を示している候補は他にもいます。ローレン・ボーバートも協和乙の下院議員が現職のコロラド州第3下院選挙区の予備選挙で勝利しました。彼女は過去に「Qについては知っている。私はこれが事実であることを願う。なぜなら、アメリカがよりよく、より強く、そして人々が保守主義に傾いていることを示すからだ」と発言しました。
ジョー・レイ・パーキンスは共和党のオレゴン州上院議員選挙候補です。オレゴン州という民主党の牙城なので上院議員にはなれませんが、共和党の予備選挙を勝ち抜きました。彼女もQanonへの支持を表明し、このことについて質問を受けた彼女の選挙部がこれを否定したものの、選挙部と真逆の発言をしてまでQanonへの支持を表明しました。
なぜQanonが共和党で大きな影響力をもつか
これらのことから見えてくるのは共和党内でのQanonの影響力の拡大です。これらの候補は議員になるにしろならないにしろ、共和党内での予備選挙を勝ち抜けるほどの支持を集めており、何人かは複数回当選されている現職の議員を予備選挙で破っています。
インターネット匿名掲示板初の陰謀論がなぜここまで影響力をもつようになったのでしょうか？その理由はこの記事でも書いたように様々なスキャンダルまみれのトランプを擁護するのにトランプ支持者からすれば都合がよかったからですが(トランプ支持者と共和党支持者はほぼイコールです)、もう一つの理由はトランプ陣営がこのような陰謀論を否定するのではなく、むしろ受け入れて信者を再選のために利用しようとしているからです。
Qanon陰謀論はアメリカを裏で操る秘密組織を倒すために軍部良識派がトランプに出馬を依頼して、トランプが大統領になってから密かに有名な俳優やクリントンを児童に対する性的犯罪で逮捕して軍事裁判(なぜ？)にかけているといったものです。クリントンに至ってはもうすでに5,6回は逮捕されて少なくとも数回は銃殺や絞首刑にされているはずですがまだ元気ですね。
Qanonはトランプを中心にした陰謀論なので、一言トランプが「そんなものは存在しないしこれは頭のおかしい陰謀論だ」と言えば瓦解します。
しかし、トランプはQanon信者のツイートを複数リツイートし、マージョリー・テイラー・グリーンを熱狂的に支持しています。彼女の予備選挙の勝利に際しトランプは「共和党の未来のスターのマージョリー・テイラー・グリーンへジョージア予備選挙での大勝利おめでとう。マージョリーは全てのトピックに強く、絶対にあきらめない本当の勝者だ」とツイートしました。
それどころか、グリーンが信じているQanon陰謀論を信じているかという質問に対し、彼は明確に否定せず、グリーンをほめたたえました。トランプとしてはQanon信者は自分の熱心な支持者だから彼らを落胆させずに利用しようとしています。
トランプがこの態度をとる以上、彼が再選されようとされまいと共和党内でのQanon陰謀論の影響力は拡大を続けるでしょう。これはトランプが落選した際どれほど共和党ないで影響力を保つかによりますが、パンデミックへの完全に失敗した対応でトランプの支持率が最低レベルないまでも共和党支持者からの支持率は非常に高いため、トランプは影響力を持ち続けるでしょう。
なぜトランプが影響力を持ち続けるか
トランプが共和党支持者からこれほど支持率を保っている理由の一つは、共和党支持層は以前よりもより単一的な集団だからです。民主党は過去数十年常に共和党よりも複数の異なる集団(人種、性別、教育レベル)から成り立っていましたが、共和党も少し前まだは現在よりかはより多様的でした。
ジョージ・W・ブッシュは大統領選挙で約半数のヒスパニック票を獲得しました。8年前の2012年でも共和党は郊外の高学歴白人と田舎の低学歴白人両方の支持で成り立っていました。しかし、特にオバマ政権とトランプの台頭で共和党支持基盤はどんどん単一になっています。
具体的には比較的低学歴の白人、特に男性に依存しています。最新のCBS/YouGov世論調査では、トランプは黒人とヒスパニックでバイデンに大差をつけられています。それはいつものことですが、大卒の白人は10%差でバイデンを支持しています。そして大卒未満の白人は25%差でトランプを支持しています。
これからわかるのは、トランプの支持者=共和党支持層の中では大卒未満の白人が他に大きく差をつけて最大の勢力です。ここさえ押さえれば共和党の指名候補になれます(トランプはそうして勝ちました)。つまり、仮にトランプが敗北しても同じトランプ支持者が共和党内での最大勢力であり続けるということです。これが例えば民主党だったら黒人有権者、ヒスパニック有権者、高学歴白人、若者と様々な集団が一定の影響力を持っているため、一つの集団だけが大きな影響力を持ちすぎるということがありません。
共和党内の最大勢力が変わらないため、この先何がこってもQanon陰謀論はある程度の影響を共和党内で少なくともしばらくは持ち続けるでしょう。
追記
トランプがQanon陰謀論に関する質問を受け、この陰謀論の信者を利用しようとする意志を明確にしました。信者が様々な犯罪を犯しているこの陰謀論についてトランプは「彼らは私のことをとても好きだと聞いている。彼らは、この国を愛しているんだ」と答えました。
記者から「Qanon信者はあなたが世界を小児性愛者と食人主義者から救っていると考えています。あなたはこれを支持するのですか？」と聞かれたトランプは「それは悪いことなのか？我々は事実世界を救っている」と答えました。
トランプの思考回路はとても単純です。彼は自分を支持する人はほぼ無条件で支持します。ロシアのプーチンを批判するのを拒否し、白人至上主義団体KKKの元グランド・ウィザード(最高指導者)デイビッド・デュークから支持を表明された際も彼を批判するのを拒否しました。2017年に白人至上主義者が反人種差別主義活動家を自動車で轢き殺した時も、「両側によい人たちがいた」と白人至上主義者を擁護しました。